"新・経営の神様"稲盛和夫が明かす
「日本、大復活のカギ」
今の日本企業は才覚のある人をリーダーとして重用します。私はリーダーを選ぶとき、
能力ではなく人間性や人格で選びます。能力に多少の問題があっても人格のある人は
努力をして成長する。そういう人をリーダーに選んでこなかったことが、
問題を引き起こしているのではないか。
昔、京セラがまだ町工場だった頃、滋賀の工場で細かい仕事を黙々とする男がいました。
工場へ行くたびに、なぜか彼の手元に目がいってしまうのです。中学しか出ておらず、
才能などない、真面目が取り柄の男でしたが、周囲に押される形で頭角を現し、
課長、部長になっていきました。
経営者は「儲けたい」「会社を大きくしたい」という我欲を起点にしがちです。しかし、
本来は「人間として何が正しいか」を起点に置くべきです。自分の会社に都合がいいことばかり
を選ぶのではなく、たとえ会社に不利であっても人間として正しい道を選ぶ。
そういう信念を私はフィロソフィーと呼んでいます。フィロソフィーをしっかり持った上で、
一心不乱に仕事に打ち込む。そういう生き方をしていれば、道を踏み外すことはありません。
中国の司馬光という人が書いた『資治通鑑』という本によると、人間の能力を「才」、
人間性を「徳」とした場合、才も徳もある人は「聖人」、徳が才に勝る人は「君子」、
才が徳に勝る人は「小人」、才も徳もない人は「愚人」だそうです。
会社に聖人や君子がいれば、その人をリーダーにすればいい。しかし、なかなかそんな立派
な人は見つかりません。そこで多くの会社では小人をリーダーにしてしまう。
これが危ないのです。才があっても人間性のない人は己の栄達のために会社を危うい方向に
持って行く恐れがある。長い目で見れば、小人よりは愚人のほうが成長します。