『そうか、もう君はいないのか』
城山三郎
新潮文庫
調べると、この作品の
ドラマもあったのですね。
小倉昌男さんだったり、
城山三郎だったり、
最近先に奥さんに逝かれてる作品によく出会う。
そうだよな。
そうなるよな。
よくわかる、かも。
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焦らずコツコツと書いていこう。
それで認められなければ、自分の力不足ということ。
改めて、自分にそう言い聞かせた。
イタリアの経済学者パレートが好んだ、
「静かに行く者は健やかに行く 健やかに行く者は遠くまで行く」
という箴言を、何度も口ずさみながら。
76p
「おまえは……」にが笑いして、重い空気は吹き飛ばされたが、私は言葉が出なかった。
かわりに両腕をひろげ、その中へ飛びこんできた容子を抱きしめた。
「大丈夫だ、大丈夫。おれがついてる」
何が大丈夫か、わからぬままに「大丈夫」を連発し、腕の中の容子の背を叩いた。
こうして、容子の、死へ向けての日々が始まった。
127p
四歳年上の夫としては、まさか容子が先に逝くなどとは、思いもしなかった。
もちろん、容子の死を受け入れるしかない、とは思うものの、
彼女はもういないのかと、ときおり不思議な気分に襲われる。
容子がいなくなってしまった状態に、私はうまく慣れることができない。
ふと、容子に話しかけようとして、われに返り、
「そうか、もう君はいないのか」と、なおも容子に話しかけようとする。
134p
強固な心身を持つ父への敬愛が、いつしか慈愛へと化してゆく。
親を子のようにいとおしいとさえ思う気持ち。
命を感じながら生きるようになると、自ずと出てくる感謝の気持ち。
そして再び崇高な尊敬の念が生まれてくる。
149p